ブランディング

売っていたのは、プラスチックの板じゃなかった

自社の仕事を定義し直すと、何が変わるか

ブランディング

今日の昼、5社が順番に自社を紹介する会に出ていました。

2番目に話した方の10分で、僕はメモを取る手が止まりました。


「なんて場違いなところに来てしまったんだろう」

そう言って話し始めたのが、長野県安曇野市でアクリルスタンドやアクリルキーホルダーを作っている会社の社長でした。いわゆる推し活グッズです。

自己紹介がうまい。ひとことでこう言いました。

「業態としては何屋さんかと言われると、紙ではない印刷所だとイメージしていただければ」

紙ではない印刷所。 これで全員が分かりました。

場所は安曇野の、山が見えてカモシカも狸も来るような一帯。2022年から一部が過疎地域に指定された場所です。そこから全国のクリエイターや出版社の注文をネットで受けている。

社内は社長を入れて5人、平均年齢は30代半ば。全員が何かしら推し活をしているそうです。使っている機械は長野県東御市のミマキエンジニアリング。長野の機械で、長野の会社が、全国に出しています。

法人化した翌年に、コロナが来た

グラフを見せながら、淡々と話していました。

満を持して法人化したら、翌年にコロナ。イベントがなくなり、店舗に人が来なくなって、2期連続の赤字。 売っていたのはイベントで配られるグッズだったので、当然といえば当然です。

そこから戻して、いまはリピート率が約77%。新規のお客さんも、ほとんどが既存客からの口コミで来る。

「どれ一つとっても手を抜いたら、もうそのコミュニティごと潰しちゃうみたいな怖さはあります」

いい表現だなと思いました。口コミで回っている商売の緊張感が、そのまま出ています。

売上が伸びていた頃に、分からなくなった

ここからが本題です。

グラフが伸びていた、まさにその時期に、社長は仕事の意味を見失っていきました。

「仕事はおかげさまでどんどんいただいて、お金もそれなりに入るようになっていって。でも、やはり時間がなくなっていきました。夜中まで仕事しながら、自分はなんでこんな仕事してるんだろうって、ずっと考えているような時期がありました」

お金のためなら、もうこれで十分じゃないか。仕事をもう少し作らなければ、すぐ遊びに行けるのに。そんなことばかり考えていたそうです。

そしてある深夜、追い詰められていた時に、ひとつ腹に落ちた。

夜中まで機械を回して、それでも意味が分からなくなる時期がある
夜中まで機械を回して、それでも意味が分からなくなる時期がある

「作っているのは、本質的には多分プラスチックの板じゃないな」

子どもが書いた手紙は、ただの紙か

そのあとの説明が見事でした。社長は、お子さんが書いた手紙を例に出します。

ものとして見れば、ただの紙です。 紙自体に価値はほとんどない。でも自分にとっては、捨てられるものでも、粗末にできるものでもない。

「同じ紙を新品でもらったところで、何の価値もないです。ということは、価値があるのは紙そのものではなくて、ここに乗っかっている気持ちです」

「材料としてはアクリルでも、そこに人の『好き』が乗った瞬間、全然違うものになる」

「仏像を彫るのに似ている」

仏像だって、物質だけ見れば木や石です。 でも人はそこに意味や祈りを重ねている。だとしたら、彫るときの鑿(のみ)の一振りは、ただ木を削っているだけじゃない。

自社に置き換えると、印刷する、カットする、検品する、梱包する。作業そのものは単純です。

「一つ一つの作業の先に、誰かにとって大切なものがある。だから『こんなもんでいいかな』みたいなものは、もう一切やめようと決めました」

品質基準が、精神論ではなく定義から降りてきている。ここが強い。

利益の意味まで、書き換わっていた

いい話で終わらせないのも良かった。「誰かが喜んでくれれば十分で、利益は二の次」という会社に聞こえるかもしれない、と本人が先回りしてから、こう言いました。

「利益が必要ながらこの仕事をしているんじゃない。この仕事をしたいから、利益が必要である」

「利益は目的というより、この仕事を続けていくための燃料だと思っています」

そして採用の話。人が足りないそうです。でも、

「人手が足りないからって、あんまり言いたくないんです。ただ人がいればいいとかじゃないなっていうことですね」

「経営者として、この人たちに出会えたことが本当に幸せだと思っていますし、誇りに思っています」

社内で大切にしている言葉は、これだそうです。

「私たちの仕事は、誰かの『生きていてよかった』につながるものである」

安曇野の田んぼの中から、全国に出している
安曇野の田んぼの中から、全国に出している

これ、経営に置き換えると

僕がこの10分でいちばん唸ったのは、変わったのが「言葉」だけじゃなかったことです。

自分たちが何を売っているかの定義をひとつ書き換えたら、そこから全部が降りてきていました。

  • 品質基準 →「こんなもんでいいか」を禁じる根拠になった
  • 利益の位置づけ → 目的ではなく、続けるための燃料になった
  • 採用の基準 → 頭数を埋める採用をやめる理由になった

順番が、たいてい逆なんですよ。多くの会社は「どう売るか」から考えます。広告、SNS、価格、キャンペーン。でもその手前に「そもそも何を売っているのか」があって、そこが決まっていないと、下の判断が全部ブレます。

そしてこの定義は、外から借りられません。 コンサルタントが渡した言葉は、深夜に自分を追い詰めた末に出てきた言葉には勝てない。

ブランディングというのは、この定義を自分の言葉で言い切って、それを全部の判断に通すことです。ロゴでも色でもありません。

今日できる一歩

自社の商品を、2回言ってみてください。

1回目は材料で。「うちはアクリルの板に印刷しています」

2回目はお客さんにとって何になっているかで。「うちは、人の『好き』が乗るものを作っています」

この2つの差が、そのままブランドの余白です。 差が大きいほど、伝えるべきことが残っている。

差が出なかったら、それは謙虚なのではなく、まだ自分の仕事を材料の目でしか見ていないということかもしれません。

さあ、いこうか😆

P.S.

最後に「どういう推し活をされているんですか」と聞かれて、この社長、少し間を置いて「娘2人です」と答えていました。冒頭で「場違いなところに来てしまった」と言っていた人が、いちばん場を持っていきました。10分で全部持っていかれた、というのが正直なところです。

あなたの会社の「らしさ」は、どこにありますか

30秒で終わる診断があります。考えて出すものではなく、もともとあるものを掘り出すための入口です。