ブランディング
「断らない」は、弱みじゃなかった
中小企業のブランドコンセプトとキャッチコピーの決め方

昨日は、長野市のプロショップ車館さんでブランディング研修でした。車検・整備から板金、輸入車、中古車販売まで手がける、創業25年以上の会社です。
社員さん全員参加で、午後いっぱい。ブランドコンセプトを固めて、キャッチコピーまで作る日です。
その前に、この写真を。

ワズとパズです。ロシア製の車で、左が笠原さんの持ち物、右が僕の。この2台が並んでいる写真、たぶん全国でも他にありません。
笠原さんは10年ほど前、この手の車を長野でディーラーとして扱おうと、ロシアの人と話を進めていたそうです。戦争が始まって、そのまま止まりました。
……前置きが長くなりました。研修の話です。
「うちは何でも屋だから、強みがない」
課題ははっきりしていました。強みが言葉になっていない。
車検、整備、タイヤ交換、中古車販売、輸入車も見る。つまり何でもやる。だから「うちの売りは何か」と聞かれると答えられない。
研修では最初、こう出ていました。
「断らないっていうところをしていきましょうと。でも断らないだと、ちょっと何でもやるってあれだから」
「断らない」を売りにすると、何でも屋に聞こえてしまう。ここで止まっていたわけです。
でも、話しているうちにひっくり返りました。
「車のことに関して何でもっていうのは、幅広いっていうよりも、それだけ専門性が高いなと思う。他の大手は本当に細かいのとかってなったりするので、結局いろいろ相談できるところってないよね」
大手は分業が進んでいて、逆に「全部相談できる場所」がない。 何でもやれるのは、間口が広いのではなく専門性が高いということでした。
弱みだと思っていたものが、そのまま強みの説明になった瞬間です。
決まったコンセプト
そこから出てきたのが、これです。
「むっちゃあなたのカーコンシェルジュ」
コンシェルジュ、がポイントです。修理屋でも販売店でもない。車のことなら何でも聞ける、あなた専属の人。
そして「むっちゃ」。「めっちゃ」のさらに上です。もともと社内で使われていた言葉ではありません。研修の場で、こう決まりました。
「めっちゃ、むっちゃって言っていかなきゃいけない。そうです、本物だから。むっちゃって皆さん言ってくるんですよ。これからむっちゃ、ここではむっちゃって言ってくれる」
言葉が先にあったのではなく、これから使う言葉を決めたんです。決めてから、そこに寄せていく。ブランドって、そうやって作れます。
色は、選ぶんじゃない。もう意味がついている
次はどう見せるか。食欲をそそる色は赤と黄色だから、マクドナルドはあの配色になる。白い恋人がピンクだったら、あのお菓子は別物です。
「あんまりいちいち考えなくても、ずっとそれに合わせて使ってたら、そういうイメージになってくるんですよ。だから楽ですよ」
色を毎回考えるから疲れる。1回決めて、あとは何も考えずに使い続ける。それだけで勝手にブランドになります。
名前を変えただけで、売上が45億になった話
いちばん反応があったのが、ネーミングの実例です。中身を変えず、名前だけ変えた会社の話。
伊藤園「お〜いお茶」。もとの商品名は「煎茶」。読めない人が多かったそうです。1989年に改名して、その年度の売上は約40億円。85年比で6倍以上。
ネピア「鼻セレブ」。名前とデザインだけ変えて売上10倍。
極めつけが、レナウンの紳士靴下です。1981年に「フレッシュライフ」として発売、初年度3億円。その後まったく売れず、年1億円まで落ちた。
6年後、名前だけを変えて出し直します。「通勤快足」。
「その一年間、年間売り上げが13億円に。さらに翌年には売り上げは45億円。これ、価格も一緒、機能も一緒、ターゲットも一緒、デザインもほぼ一緒です」
3億→1億→13億→45億。変えたのは名前だけです。
専門家が名前をつけると、こうなる
もう1つ、僕がいちばん好きな例が「まるでこたつソックス」です。
この靴下、専門家が説明するとこうなります。
「明治国際医療大学 共同開発」「特許出願中」「特殊温熱繊維パイル」
……間違ってはいません。でも、ほしくなりますか。
顧客目線で見直した結果が、「まるでこたつソックス」。中身は同じです。専門用語を捨てて、生活者が使う言葉に置き換えただけ。
僕はこれを妻にプレゼントしたのですが、「洗っている日に履けないから2足ほしい」と言われ、結局そのあと僕もメンズを買いました。

専門性が高い会社ほど、この罠にはまります。正確な言葉と、伝わる言葉は違う。
お客さんが選ぶ、本当の理由
研修の途中で、いちばん効いた場面があります。
研修の助手に入ってもらっていた、うちの山口千尋さん(社内では、ちーちゃん)が、お客さんに「なぜ車館さんに頼んでいるのか」を聞いてきていたんです。
聞いた相手が、自分のお母さんでした。
これ、仕込みではありません。準備を進めるなかで、ちーちゃんのお母さんが、たまたま車館さんのお客さんだったと分かったんです。しかも長年の。
長野は狭いな、と言えばそれまでです。でも僕は、こういう偶然が転がり込むこと自体が会社の実力だと思っています。地元で長くやっている会社ほど、思わぬところで誰かの生活に入り込んでいる。
そしてこの聞き取り、強いんですよ。
社員が「うちの強みは何だと思いますか」と聞くと、お客さんは気を使います。 悪いことは言えない。でも娘が母親に「なんであそこに頼んでるの」と聞いたら、忖度する理由がない。
出てきたのが、これでした。
「他のメーカーで頼むと丁寧にやってくれるけど、より他の悩みを伝えやすかったりとか、ホームな雰囲気が、母にとってはちょうどいい」
「一番は、例えばメーカーを変えたとしても、ここならずっと長くお付き合いしてくれるっていうところが一番大きい」
……これ、「むっちゃあなたのカーコンシェルジュ」そのものじゃないですか。
会議室で考えたコンセプトが、お客さんの言葉とぴたりと一致していた。机上の空論じゃないと、その場で証明されたわけです。僕はこの瞬間がいちばん好きです。
コンセプトは、当てにいくものではありません。すでにお客さんが感じていることを、言葉にして拾い上げるものです。だから「聞く」が先で、「考える」は後。
今日できる一歩
自社の「弱み」だと思っていることを1つ書き出して、お客さん側から見たらどう見えるかを考えてみてください。
- 何でも屋 →「全部相談できる場所」
- 規模が小さい →「社長が直接出てくる」
- 古い →「20年続いている」
弱みの多くは、視点を変えると強みの説明になります。 車館さんも、消したいと思っていた「断らない」が、そのままコンセプトの芯になりました。
さあ、いこうか😆
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P.S.
研修のあと、笠原さんと2人で焼肉に行きました。そこで出たのが冒頭のワズとパズの話です。あの2台が並んでいるのを見て、いちばんはしゃいでいたのは僕でした。 ブランディングの話より熱く語っていた気がします。

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