AI×経営

17年探している言葉は、AIには書けない

AIブログが薄くなる理由と、書かせる前にやること

AI×経営

今日、ある歯科医院の院長との打ち合わせでした。

その医院では、ホームページに載せる記事をAIで作る仕組みを動かしています。院長が過去に書いたブログを全部学習させて、そこから新しい記事を書かせる。 理屈としては、いちばん本人らしい文章が出るはずです。

出てきた記事を、院長に読んでもらいました。

第一声が、これでした。

「なんか、これは薄っぺらいんですよね、これ」

正直、僕もそう思っていました。今日はその理由の話です。


AIが書けるのは「教科書の回答」まで

なぜ薄いのか。読み比べていて、はっきり分かりました。

AIが書いたのは、「この症状にはこの治療が正解です」という説明でした。間違ってはいません。検索して出てくる情報とも合っている。

でも院長が現場で言っていることは、まるで違いました。

「この歯を残したい、根管治療を上手にやってほしい、マイクロスコープを使ってほしいと言って来られても、いや、これはあなたの場合は抜くのがベストじゃない、みたいなことは多々あるんですよね」

指名された治療を、断ることがある。しかも「その人の口を見て話さないと分からない」から、事前に正解は決まらない。

費用の話も、こうです。

「コスパがいいとか悪いとかって、こっちで決められないですからね。僕はこれがコスパがいいと思うけど、あなたは悪いと思う、みたいなことがいっぱいあるじゃないですか」

これ、AIが絶対に書けない種類の文章なんですよ。学習データのどこにも「あなたの場合は」が無いので。

17年、探している

打ち合わせの途中で、院長がぽつりと言いました。

「自分も、これという決めの言葉が、17年間ずっと探してて」

僕はここで、少し背筋が伸びました。

17年かけて本人が見つけられていない言葉が、その人の過去の文章を読ませたAIから出てくるわけがない。

当たり前のことなんですが、AIに「らしい文章」を書かせようとするとき、僕らはこれを忘れます。過去に書いたものの中に答えがあると思ってしまう。無いから、17年探しているんです。

じゃあ、AIは使えないのか

逆です。使い方の順番が違っただけでした。

同席していたうちの担当が、その場でこう言いました。

「こういう表現は、絶対にAIから出てくるわけがないので。学習させるのはもちろんなんですけど、どこかで病的に大量に、先生の考え方を1回バーッと吐き出してもらう」

先に書かせるのではなく、先に吐き出させる。

院長が全部の記事を自分で書くのは無理です。時間がない。でも「こういう治療のときはこう考える」を喋ってもらうだけなら、できる。それを大量に集めて、AIに整えさせる。

AIは書く道具ではなく、聞き出して整える道具。 そう置き直した瞬間に、話が全部つながりました。

「いいことを言うタイミング」は予告できない

面白かったのが、この後のやりとりです。

院長も、実は自分の言葉を残そうとしたことがあるそうです。でも、こう言うんです。

「いいことを喋るタイミングが、事前に察知できなくて」

それに対して、うちの担当の返しがこれでした。

「いいことじゃなくていいんですよ、本当に」

これが答えだと思います。いい話をしようとした瞬間、人は教科書の回答をしゃべる。

さっきの「あなたの場合は抜くのがベスト」は、いい話をしようとして出た言葉ではありません。目の前の患者さんに、その場で答えた言葉です。

一昨日書いた「学生はホームページを見ていなかった」と、まったく同じ構造でした。綺麗に整えるほど、差が消えていく。

だから、いい話を待つのではなく、普段のやりとりのほうを残す。使えるかどうかは、後で決めればいい。

僕自身、商談や会議で出てきた言葉は、その日のうちに書き留めるようにしています。あとで読み返すと、力があるのはいつも、かっこよく言おうとしていない一言のほうです。「あなたの場合は」とか「それ、うちではやらないです」とか。

経営に置き換えると

AI活用の勝負どころは、どんな指示を書くかではありません。

AIに、何を渡せる人間なのか。

同じツールを使っても、渡すものが「他社と同じ一般論」なら、出てくるのも一般論です。渡すものが「今日、目の前で起きたこと」なら、他社に絶対書けないものが出てくる。

Googleは2022年末に、検索の評価基準に「Experience(経験)」を足しました。E-A-TからE-E-A-Tへ、という公式発表です。専門性や権威性の前に、その人が実際に体験したかどうかを見る、と言っている。

差がつくのは、プロンプトの技術ではなく、素材を持っているかどうかでした。

今日できる一歩

自社のホームページに、AIで書いた記事があるなら、1本だけ読み返してみてください。

そして、こう問う。

「これ、うちにしか書けない?」

答えが「他社でも書ける」なら、それは検索に引っかかるための材料であって、選ばれる理由にはなっていません。昨日書いたカーディガンの話も同じで、比べられる時点で負けているんです。

直し方はひとつです。その記事に、昨日あなたが現場で言ったことを1行足す。それだけで、別のものになります。

さあ、いこうか😆

P.S.

院長の「17年間ずっと探してて」という一言が、今日いちばん刺さりました。17年やっても、まだ言葉になっていないものがある。それを探し続けている人の文章だから、読む価値があるんだと思います。AIが1秒で出す答えとは、そこが違う。

あなたの会社の「らしさ」は、どこにありますか

30秒で終わる診断があります。考えて出すものではなく、もともとあるものを掘り出すための入口です。